愛を。

看護師ケアマネ。愛すべき利用者との関わりをちょっぴりフィクションほぼノンフィクションで。(記事の編集を随時行っています)

かわいそうな人

訪問看護師から再三電話がある。

「Ⅿさんがかわいそう。みんなで言ってるんですよ。食べる物が無くて」。

ヘルパーも言ってきた。

「かわいそうだなって思う」。

うんうん、そうかそうか、かわいそうか。

 

息子と2人暮らし。

本人は癌の転移で予後不良と思われるが、今のところ主に外来で抗がん剤の治療を行いながら、在宅生活を送っている。

これまでも、オムツが無い、ストマの装具が無い、食べる物が無いという話はあった。それを一つ一つ解決するよう息子と話しをしてきた。

 

オムツ(リハビリパンツ)は市の高齢者福祉サービスを申請したものの、日中就労している息子は電話による確認や受け取りなどが難しそうだった。

なので、デイサービスのスタッフにチケットを預け、毎月デイで受け取って貰うようにした。

ストマは人工的に作られた新しい排泄口のこと。便や尿を受け止める袋(パウチ)などを身体障がい者手帳で日常生活用具の給付が受けられる。

退院する時に説明を受けてきたはずなのに、本人にしか説明が無かったのか、本人は覚えておらず、手続きがなされず数ヶ月経ってしまった。

やっと息子が手続きに行ったが、その後決定通知の手紙がきていたはずなのに紛失してしまい、実際受け取るにも時間を要した。

役所関係の書類の宛名は全て息子さんの名前にした方が良いと思うと伝えた。

お母さんの名前の郵便物は全部自分の部屋に持って行ってしまい、わらかなくなってしまっているようだったから。

 

食事に関して、当初は市の配食サービスを利用していた。

しかしすぐ「あんなに食べれないし、食べたくない。要らない」と言って断った。

朝から晩まで働いているという息子に、今後食事はどうしますかと聞くと、「何か買って置いておきます」と言った。

訪問看護、デイサービスを週4回、福祉用具のレンタルを入れたら、ヘルパーは週2回しか入らない。それ以上サービスを入れると限度額からオーバーする。

息子はオーバーは困ると言った。

介護保険は介護度(1~5)によってそれぞれ使える限度額というものが設定されていて、その範囲内でサービスを利用すれば1割(一定所得以上の人は2割)で良いがそこからオーバーすると10割負担となる

それで、食事は買ってくると言っていたのだが、実際はカップラーメンや冷凍食品だった。

本人は「カップラーメンは食べたくない」と言う。

冷蔵庫には賞味期限が切れた物があり、ヘルパーに必ずチェックして捨ててもらうようにした。

私が訪問した時も、「何も食べていない」と言うため冷蔵庫を見たところ冷凍室にピザがあったためトースターでチンして食べて貰った。「美味しい」と言った。

やはり熱い物は熱く、冷たい物は冷たくして、今食べたい物を食べたいと言うのが本音なのだろう。

しかしお母さんが冷凍食品の袋に書いてある説明書を読み、理解し、電子レンジを使うことができると息子は思っているのだろうか。

 

今回は息子が1週間くらい県外に行くと言った。

その間お母さんをどうしましょうか、デイを1日追加しましょうかと聞いた。

はっきりとした返事は無かったが、「姉に来てもらおうかとも考えている」と言った。

なので、息子から「今日から行くのでデイを追加してください」とメールを受け取った時、お姉さんが来てくれることになったのかなと思った。

それ以外の相談が無かったから。

でも、と一抹の不安を感じ、すぐお姉さんが来てくれるんですかとメールを送った。

息子からの返事は無かった。

これまでも、何か不都合なと言うかあまり答えたくない返事はいつも返ってこなかったので、もしかしてと思った。

案の定、デイからヘルパーから冒頭の電話である。

「Ⅿさんが腐った鍋を食べてたんですよ。もう、かわいそうでかわいそうで」。

「息子さんどう思ってるんですかね」。

「混ぜるだけの炊き込みご飯の素でご飯を炊いてあったんですけど、床にご飯がボロボロ落ちている。目があまり見えないので踏んづけている」。

「冷蔵庫の中に茶色いしめじが入っているけど・・・」

それ、ブラウンしめじじゃない?

いや、普通のしめじ・・・

 

本人に会いにデイへ。

息子さんがしばらく留守にすると聞いてありましたよね。

食事はどうするとか話し合ったんですか?

本人が大丈夫、何とかすると言ったのかもしれない

「うん、それがちゃんと話してないのよ」。

でも息子さんがいないとどうするかちゃんと話し合っておかないと困りますよね。

「うん、そうなの」

本人を責めているわけではありません

でも2人とも立派な大人なので、考えることはできたでしょ

娘さんが来る予定だった?

「いや娘が来たら私が困る」。

娘さんとの関係はやはり良くないのだな

どうしましょうか、ヘルパーにお弁当を買ってきてもらいましょうか。

「そうしてください」。

どんなお弁当が良い?

「和風が良いな」。

ヘルパーさんに幕の内みたいな和食のおいしそうなお弁当を買ってきてもらいましょうね。

 

今回は食べ物だけではなく、薬も足りなくなったのだった。

これまでも危うい時があり、デイや訪問看護師をヤキモキさせた。

デイのスタッフや訪問看護師が残薬をかき集めても足りず、血圧が200になった。

 

今回ばかりは少し踏み込んだ話をした方が良いかもしれないと思った。

息子にデイでのお母さんの様子を実際に見てもらった後、相談室で2人で話をした。

と言っても、口数の少ない寡黙な息子である。

簡単には口を割りません。笑

というか、私もデイのスタッフも看護師さんも、息子さんとお母さんの味方、敵じゃないですよね。

お母さん血圧が200だとせっかくデイへ来てもお風呂に入れなかったりリハビリができなかったりするんですよ。血圧が高いと心臓にも負担をかけるんですよ。それで体調が悪くなったり病気が悪化したりしたら困りますよね。薬を飲まないと言う日を作らないように。薬を貰ったらその時点で無くなる日がわかりますよね。早め早めにお願いできますか。

勿論、怯える?息子に対しゆっくりとやさしく落ち着いた声で。

やっと言ったのが「今回は仕事が忙しくて・・・」。

いやわかっています。

どこまでプライベートに踏み込んで良いのか。

良い年頃と思うので、きっと仕事だけではないのだろう。

息子さん1人でお母さんを看ているので、皆心配しているんです。

1人で抱え込み、追い詰められているんじゃないか・・・

 

帰り際息子に伝えた。

一緒に考えられることもあるかもしれないので、いつでも何でも相談して貰って良いですよ。

何か困ったことがあったら私を思い出してください。

 

 

かわいそうな人。

食べ物が目の前に無いからかわいそうなのか。

本人や家族の想像力の欠如、予測能力の低さから起こりうる困りごとに対して、どこまでお膳立てをするのか。

あくまでも本人・家族の自立支援であるなら、困ってしまってからどうしようか、困ったから次はどうしたら良いかと考えるチャンスなのかもしれないとも思う。

こんなケアマネでごめんなさい。

なんだか一緒になってかわいそうモードになれないケアマネでごめんなさい。

自分の身内のように心配し憤る看護師。いくら同じ薬だからって8月の分は飲ませられないと。いや緊急時だから飲んで良いんじゃない?いや飲ませて欲しい。自分だったら飲む!笑

迎え時薬をかき集め、何とか薬を飲ませようとするデイのスタッフ。お風呂に入れてあげたかったのよね。

言われたこと以上のことをやってくれているだろうヘルパー。もっとやってあげたいけど時間が足りないのよね。時間あげれなくてごめんなさい。

 

お母さんに今何か困ったことやこうしてもらいたいなどの希望がありますかと聞いたことがあった。

お母さんはうーんとしばらく考えた後こう私に言った。

「1人でいる時間が長いのでさみしい。本当は息子に早く帰って来て欲しい。でも私がわがままを言ったら息子がせっかく働いているのにね。息子が家にいてくれるからこの家に居られる」と。

 

 

みな心の中に愛を持っている。

一人ずつ色が違うし光具合も違うが、みな愛を持っている。

息子の胸にもお母さんにも。

いつも愛が同じ形だとは限らない。

自分と同じだと思い込むのは誤解を生みやすい。

考え方や生き方がいろいろなのと一緒で、愛にも多様性がある。

その多様性の中でみな一生懸命生きているのではないか。

それぞれの愛を尊重し、支援に繋げていきたいと思う。