愛を。

看護師ケアマネ。愛すべき利用者との関わりをちょっぴりフィクションほぼノンフィクションで。(記事の編集を随時行っています)

亭主関白の人

商社マンだった夫は、自分が何年も病院にかかっていて、血圧の薬を飲んでいることを妻には内緒にしていた。

ある日突然家の中で倒れ、その後脳梗塞の後遺症で左半身麻痺・高次脳機能障害を抱えることになった。

 

 高次脳機能障害とは、人が人間らしさを発揮できる所以が高次脳機能です。人の脳には、下等な動物にもある呼吸など生命維持に必要な部分や運動や感覚に必要な部分に加えて、物を覚えるとか判断するという高度の機能と関係した新しい部分があります。これら、人にしか存在しない部分が障害されると高次脳機能障害が起こります。高次脳機能の中心は認知機能です。

高次脳機能とは、人間ならではの高度な脳の働きで、注意を払ったり、記憶・思考・判断を行ったりする機能を指します。これらの機能を失ってしまうのが高次脳機能障害です。

 

この夫は失語症に加え、左半側空間無視があり、介護度も中重度となった。

まだ若かったため、本人は元より妻の不安は相当のものがあったと思われる。

しかし妻は持ち前の明るさで、夫の介護を続けながら自分も仕事に出るようになった。

それは経済的な理由が大きいのか、それとも手に職があるので専門性を生かしたいのか、特に聞いたわけではないが、その姿は生き生きとしており、人に必要とされる喜びを感じていることが理解できた。

そんな妻に対し夫の態度がだんだん変わってきた。

これまでおとなしく留守番ができていたのに、怒りっぽくひがみっぽく、妬みっぽくなっていったのだ。

訪問すると、妻に対して不満だらけという表情と身振り手振りのアプローチ。

でも言葉にならないので、「あーあ」と溜め息をつく。

何回か「あー、あー、こーこーこー」と指を折ったり、指をあっちこっち指したり・・・

正確に訴えている内容を理解することは難しい。

だいたい、おおよそを検討するしかできない。

妻に対しては大声を出し怒ることが増えたようだ。

病気が夫をそうさせたのか?

「後何年働けるかわからないのに、今必要とされているのに、どうしてそれがわからないんだろう、それが病気と思うけど。」と妻。

そうだろうか。

妻から話を聞いていると元来の性格が男尊女卑系。

いわゆる男子厨房に入らず、まさに亭主関白な夫なのだった。

もしもこの病気にならずとも、彼は働く妻を良くは思わなかっただろう。

今時?イクメンと言われ久しいし、男女雇用均等法も改正されてきた。

しかし家事や子育ては女がするものと未だ思っている男性も多いと思うし、女性の方もそういった呪縛からなかなか抜け出せずにいることも確か。

男女のフェアネスを後世に伝えていくことが大事だなと思う。

 

世の中の多くの夫婦が長年夫婦を続けていると、やがてお互いを持て余すようになる。

晩年はおひとり様が良いと言う人もいる。

でもやっぱり人は1人では生きられないので、あれこれ相手への不平・不満を言いながら一つ屋根の下で暮らすのだ。

 

この夫婦もまだまだ先は長いので、通所サービスを増やしそれぞれが別の空間で過ごす時間を増やすことにした。

持て余す・・・相手が本当に嫌いになる・・・とならないように。

心から嫌いにならないように。

 

それでも、夫は夫。

病気になって変わらないものもあれば、変わってしまったものもあるだろう。

でも病気と関係なく、人は変わり続ける。

夫婦の関係も病気と関係なく、変わる続けるものなんだと思う。