歩く人
ただ、歩く人。
その顔はまるで日雇い労働者。体脂肪率アスリート並み(恐らく)。
乳母車で出たっきり夜になり帰り道がわからなくなり、一晩ベンチで過ごしたこともある。
近所の人からは「おばあちゃんを外に出さないように」と言われたと家族。
認知症高齢者を家に閉じ込めることが社会的に正しいことなのか。
そうしたら電車を止めることもなく、損害賠償の心配もしなくて済む?
勿論、本人の安全確保が一番なのだが、本人は散歩に出ているわけで。
玄関が開かないようにしていても、そのドアをドンドン叩いてしまう。
ある日訪問した時、利用者の居室のドアノブから他の部屋のドアノブに紐がまかれてあり、んーこれはちょっと問題かな、出ないようにする=虐待にあたる・・・
デイサービスを増やしたいが、家族は経済的に無理だと。
息子はタクシーの運転手だが、事故を起こしてしまい収入が不確か。
私に、「役所に行って見回してごらん、みんな座ってるだけで給料貰っているだろうが。そんな奴らばっかりだろうが」と言う息子。
その妻は、「働こうと思って面接に行ったんですよ。そしたらあー中学しか出ていないのって言われて。それで嫌になってもう嫌になって、もう二度と面接に行かないって思ったんです」。
う・・・
んーどちらも意味不明。いや意味はわかりますが、いわゆる貧困層の負のスパイラル的心理状態。
自分たちが不幸なのは人のせい、社会のせい。
しかし、こういう人達は根本に発達障害や知的障害のような原因も隠れている場合も多い。診断は受けていなくても、そのボーダーにある人。
このケースも利用者の夫を担当している以前から役所が子どもへの虐待で把握していた。
それで困難ケースとして関わってきたのだが、それじゃあ施設に入れたらどうかと言う話になっても、あちこちの医療機関で未納があったりしてどこの施設も受け入れに難色を示す。
何故か生活保護も対象にはならないと役所。
息子が危ないところで借金をしたようで、夜中に玄関をドンドン叩いて大声を出され怖い思いをしたとその妻。
無料法律相談に相談したらと何度となく勧めても、「相談したことがわかったら家族に何をされるかわからない。夫が絶対言ったらダメと言う」と。
借金を整理して貰ったら良いと思うのだが・・・
妻はうつ病もあるようで機嫌の良い時と悪い時があったがいつも綺麗にお化粧していた。
毎月毎月訪問する私に、何でも相談して下さいねと言って帰る私に、ある日「〇〇さんがお金を貸してくれてね・・・」と言った。そうか。
この人達は今の困りごとを解消するためだけの世界に生きている。
近所ではお金を貸しても返さないと有名になっている。
根本的な解決など誰も望んでいないのだ。
いや、根本的な解決ができると思っていない。
働かない親の子どもが働くようになったら、その給料の殆どはこの両親の生活に吸い取られるだろう。
その子どもは働いたお金で次へのステップを踏むことなく、負のスパイラルは続く。
歩く人は、一番恐れていた行方不明→事故死とはならず、入院先から施設へ入ることができ、そのままお別れとなった。
あの家族は、その後どうしただろう。
あの時の中学生は美容学校に行ったと聞き、内心喜んでいたが途中で辞めたと耳にした。
おじいちゃんおばあちゃんのオムツを替えていたよね、両親の代わりに。
やさしい子ども。
どうか負のスパイラルを断ち切って。